この漫画が“刺さる”理由
激動の幕末、日本を揺るがす時代を生き抜いた一人の男、土方歳三。
その波瀾万丈な生涯を、司馬遼太郎が壮大に描いた歴史小説『燃えよ剣』。
そして現在、奏ヨシキによって漫画として再構築された同作は、歴史の堅苦しさを払拭し、読者の心を揺さぶる青春ドラマとして蘇っています。
「バラガキ」と蔑まれて育った少年が、いかにして“鬼の副長”と呼ばれる存在へと成長したのか、この作品には、そのすべてが凝縮されています。

作品情報
項 目 | 内 容 |
---|---|
原 作 | 司馬遼太郎(文芸小説) |
作 画 | 秦ヨシキ |
ジャンル | 幕末歴史/新選組/人物伝/青春 |
掲載誌 | COMIC バンチKai (新潮社) |
巻 数 | 全5巻(完結済み) |
初 版 | 第1巻:2022年11月発売 |
関連作品 | テレビドラマ『燃えよ剣』(栗塚旭 主演/1970年) |
あらすじ
時は安政4年、多摩の地に生まれた土方歳三は、腕っぷしが強く反骨精神に満ちた少年。
周囲から「バラガキ」と呼ばれ、乱暴者として扱われていたが、内に秘めた志は強く「武士になりたい」という願いに支えられていた。
剣の修行を重ねながら、やがて近藤勇や芹沢鴨らと壬生浪士組を結成。
次第に「新選組」へと名を変え、京都治安の維持を担う立場となる。
名もなき庶民が名を刻むために刀を取る、土方歳三の青春と血の軌跡を描く物語。

登場人物と関係性
- 土方歳三:農民出身ながら武士への憧れと反骨精神で剣を学び、新選組の副長へと登りつめる
- 近藤勇:天然理心流の師範。土方の同志であり友。理想に燃える豪快な男
- 芹沢鴨:初期壬生浪士組の筆頭局長。放蕩と暴力に走り組織を混乱させる存在
- 佐絵:土方が想いを寄せる女性。彼女との邂逅と再会が土方の感情面を支える
- 七里研之助:学識に富む医師。土方にとって初めて“斬る”相手となる人物、後悔と誇りの原点
土方は、戦友たちとの信頼と、敵との緊張のなかで徐々に“冷徹と情”のバランスを磨いていく。

名シーン・見どころ
初めて人を斬る場面
七里研之助との対峙。
土方は初めて人を殺すという行為に対し、苦悩と誇りが交錯する。
剣の道に生きるという覚悟の重みが胸を打つ。

芹沢鴨の粛清
組織の安定と信念を守るため、同士を自らの手で斬る。土方の非情な決断が「鬼の副長」としての姿勢を定義する瞬間。
佐絵との再会
激務に追われながらも、土方の“人間としての部分”を感じさせるエピソード。
失われた青春と、取り戻せない時間を象徴する。

キャラ分析|土方歳三という男
- バラガキの誇り:乱暴者と呼ばれていたが、それゆえに自分の信念を曲げずに生きてきた強さ
- 武士への憧れと現実との戦い:身分制度の壁と戦いながら、理想を手放さなかった野心
- 冷徹と情の同居:任務では冷酷な判断を下すが、内には部下や仲間への思いやりを秘める
- “生き様”の美学:最後まで己のスタイルを貫き通す姿勢は、現代人にも響く普遍的なテーマ

世界観と歴史背景
- 幕末の動乱:尊王攘夷 vs 佐幕派、藩や幕府が揺れる中で庶民が武士へ成り上がるという時代背景
- 浪士組→新選組:幕府の命で京都の治安維持を担う精鋭集団。土方はその規律と信念を守る象徴
- 武士道 vs 実力主義:家柄よりも生き様が評価される新時代の価値観が色濃く表れる舞台設定

感想レビュー(読者視点)
『燃えよ剣』の漫画版は、小説よりも視覚的な迫力が際立ちます。土方の目の強さ、刀を抜く瞬間の“迷いと覚悟”、仲間を斬る苦しみ、そのすべてが絵に込められていて、読むたびに胸が締め付けられます。
個人的には、佐絵との別れの描写にぐっときました。
土方の孤独と、奪えないものが浮き彫りになる瞬間。
“情を捨てた鬼”ではなく、“情を抱えたまま鬼にならざるを得なかった男”として描かれる姿に深く共感します。
視聴・購読情報
媒 体 | 内 容 |
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漫画版 | 奏ヨシキ・作画(全5巻/完結) |
掲載誌 | COMICバンチKai(新潮社) |
電子書籍 | Dmm.com/楽天Kobo/BookLiveなど主要ストアで配信中 |
実写映画 | 2021年公開/主演:岡田准一(原作基準) |
原作小説 | 司馬遼太郎 著/文春文庫より刊行中(全1巻) |

原作との違い
- 小説は内面描写重視/漫画は外面と演出強化
- 漫画では佐絵のビジュアル表現や土方の視線などが読者の感情に訴えやすい
- 粛清場面や戦闘描写も漫画ならではの緊迫感あり
- キャラの表情と間の取り方で“人間らしさ”がより強調される構成になっている
まとめ|“誇り”を斬るな。魂で刀を振るえ
『燃えよ剣』は、ただの歴史漫画ではありません。
土方歳三という一人の男が「何を守り、何を捨てたのか」によって、日本という国の“変わり目”を生き抜いた証明でもあります。
現代に生きる私たちもまた、身分や常識にとらわれながら、自分の信念を貫けるかどうかが問われています。
土方歳三はそれを、刀一本でやってのけた男です。
彼の物語から私たちが学べるのは、「自分の価値は自分で決める」ということ。
それはどんな時代でも、どんな立場でも、変わらぬ生き方の核になるものではないでしょうか。